わたしが嫌いなタイプの代表格に「ゴネる人」というのがある。
まぁ、「ごねる人って素敵よね!」って人はいないだろうけれど。
ちょっとしたことにイチャモンをつけて不当に得しようとしたり、もしくは損得感情はさておいてもすんなり「YES」と言わず、こちらの言うことに何らかの指摘をしたがる天邪鬼なタイプとか。
こういうタイプの人って、「ちょっとゴネれば、周りが便宜を図ってくれる」という体験を重ねてきたタイプなんだと思う。いわゆる「ゴネ得」ってやつ。
でも、経験知としてそういう学習をしてきてしまった人でも、よほど頓珍漢でなければ相手によって出方を変えるものだ。
ビジネスの場ではなおさらで、ビジネスゴネ得を交渉術だと勘違いしているような輩は、ちゃんと相手を見て主張を変える程度の機転は利く人が多いと思う。
逆にいうと、「強気にでたらコイツは言うことを飲んでくれる」 と一旦学習させてしまうと、それを矯正するのは骨が折れるというわけだ。
対峙する相手と、目線の上下関係を比較するのは本意ではないが、一度「舐められる」と後々までも尾を引くこともあるのだ。
不当な要求を断ることも仕事のうち
わたしはBtoB向けの無形サービス提供をしている会社のサラリーマンである。
デジタルマーケティングに関するコンサルティング業を主軸とした会社で、わたしの肩書きもコンサルタントなのだが、いわゆるPMといわれる立場でも兼任しており、クライアントから依頼を受けた業務に関して、品質やら納期やらの管理をして、かつ営業も兼ねるような役割を担っている。
なので、クライアントから無理難題をいわれることは少なくない。
要するに「安い・美味い・速い飯しか食いたくない!」「納期はそのままに、見積もりの金額変えずに、物量増やして!質も担保して!」みたいな話である。
こいつは計算ができないアホなのかなと思ったりもするが、まぁ向こうも大概は無茶だと知りつつ「強気に出ればなし崩し的に何とかなるんじゃないかしら」といった淡い期待を胸に、すっとぼけた体で無茶を投げてきている。
(先方担当者が現場担当者だったりすると、本当に物事を理解できずに無茶を言っているケースもあるのだが、交渉役に立っている時点でそれ相応の立場の人だったりするので、頓珍漢な人というのは稀なケースだと思う)
先にも話した通り、これを放置するとよいことはない。正当な理由がない無茶な要求に答えてしまうなど、言語道断である。
断りづらいからと一旦相手の主張を飲んでしまうと、次第に要求がエスカレートしてくることも少なくない。受け入れるとメンバーに不要な負担を強いることになるし、利益とコストの観点から望ましくないのは言うまでもない。
対応できない要求・対応する必要のない要求には、「断る勇気」をもって臨まないといけないと思う。
とはいえ、相手にしてみればゴネの作法も長年の経験の中で培ってきた彼らなりの処世術の一つなので、根本の考え方を変えることは簡単ではない。しかし、なにも考え方を矯正してやる必要は全くないのだ。ただ、「あ、コイツに反論しても無駄だな」「コイツに噛み付くと逆にめんどくさいな、やめておこう」と学習させればよいだけの話なのである。
社内外のプロジェクトメンバーが大勢いる打ち合わせの最中に、取引先から名指しで「できる方法を考えるのが、お前の仕事だろう」「できないと回答するのは怠慢だ」「納期を変えずに、対応の範囲を増やせ。見積もりの範囲内で対応しろ」と詰められていると、流石に苛ついてくる。実際、昨年末にそういう体験を久しぶりにして、けっこう消耗した。
「できる限りのことは精一杯対応させていただいているので、ご満足いただけないのであれば、弊社は力不足ですし、御社のご要望にお答えするのは難しいのかもしれないですね。かえってご迷惑をおかけすることになっても申し訳ないですし、御社のニーズに合致した企業にご依頼されたらいかがですか?」
と返したくもなるのだが、そんなことを言っても自分の品位が下がるだけ。
ここはひとつ、大人な態度を保ちつつ美しい作法で切り返してやりたいところである。
パターン化・シミュレーションは習慣化に効果的
ということで、苛ついていた期間中に、自分なりにハラワタが煮え返りそうな時でも冷静に対応するための言い回しを考えていた。
整理してみるとごく当たり前の対応ばかりで、何のことはないように見えるのだが、こうやってパターン化することには、大きな意味があると思う。
【パターン化しておく意味】
- 事前にシミュレーションしておけば、その場で余計な計算をしないですむので、脳のワークメモリを消費しないで済む(短期的には、例えば、その場の議論に集中できる)
- 脳のワークメモリを無駄に消費しないで済む状態になるので、迷い・ストレスが減り、対応が迅速になる
- 事前にシミュレーションしておくことで、たじろがずに一定の声のトーンで対応しやすくなり、相手に「こいつ、手強いかも」と思わせることができる
- 追い詰められて冷静さを失いそうになったときには、そのままあんちょことして使える
- 何より「対応できない要求には「断る勇気」をもって臨む」という大原則を忘れないでいられる
人間というのは少し追い込まれると、いとも簡単に思考力が低下するものである。
思考力が低下するほど疲れた時は、考える作業を避けたい一心で、ついフラフラと「YES」と言いそうになる瞬間が訪れたりもする。
そんな時に備えて、断り方やいなし方をパターン化しておくのは、とても大切だと思う。
ポーズが習慣化するとスタイルになっていく
そういえば、20代のころ営業職についていた頃も取引先に無理難題を言われる毎日を過ごしていた。
当時わたしが働いた会社の営業職はそこそこストレスが高く、離職率もそれなりに高く、人材の入れ替わりが激しかった。会社側もそれを認識しているのだろう、取引先から訊かれる「答えづらい質問・難易度の高い質問」をリストアップしたあんちょこが存在していた。100項目にまとめられているから、社内の通称は「100本ノック」だった。
このあんちょこ、営業に配属となって配布されるのは答えが空欄のものである。先輩のトークを聞いて盗んだりしつつ、各人の経験の中で書き換えていくのがならわしだった。
最初のうちは”対応に困ることがあったときには100本ノックを開く”という使い方をするわけだが、それを繰り返しているうちに、対応方法やそのロジックが体に染みついていき、最初は頭を捻って回答していたような質問にも、肩の力を抜いて落ち着いて対応できるようになっていた。
無茶な申し出を断ることだって、同じなはずだ。最初は抵抗があるかもしれない。
でも、無茶のいなし方をパターン化・シミュレーションとして整理して、意識しなくてもこの考え方に基づいた判断ができる「回路」を作っておくこと、それが身を救う瞬間がこの先何度も訪れるはずだ。
そういった意味では、若い営業担当者こそこういう情報が必要なのかもしれない。
わたしはすでにアラフォーだが、20代、30代の頃のわたしが仕事を断るのが下手だったことを思い出しつつ、当時のわたしにどんなアドバイスをするか、という視点も含めて書いてみた。
無茶振りパターン別 回答例
その1:「御社は●●だね」
「御社は単価高いんだよね」など、他社と比較して相対的にどうだというようなニュアンスの物言いをすることで「選択肢は他にもあるんだから、希望に応えないと発注しない」ということを暗に仄かしてくるパターンである。
これには「そうですか。弊社は●●なのですか」と返す。
オウム返しで煽っているように受け取られかねないので、トーンは注意したいところだけれど、この返しをすると「なぜ●●だと判断したのか」という根拠を相手方が話してくれることも多い。
例えば、以下のような具合に。
わたし「そうですか、弊社はそんなに高いですか」
相手方「そうだよー。B社は単価●●円で出してきてたよ」
わたし「なるほど、そうなんですね。」
ここで、相手方から特に追加情報がなく無言の場合には、ただ単に吹っかけてきているだけの可能性も高いので、空虚な奴だと哀れんでこちらも無言でスルーしておけばよい。
相手方から聞いた情報に妥当性がありそうであれば、「なるほど、ちょっと上席にも確認とってみますので、もう少し詳細お伺いできますか?」と突っ込んでいき、社内調整の材料を得ることもできる。
とはいえ、今回の趣旨でいえば基本的に断りたいわけで「なるほど。ちょっと持ち帰らせていただいて社内で再度揉みますね。後日回答させていただきます」でよい。
で、「検討したのですが、こういう理由で難しく」と別日に返答する。
間髪入れずに回答せず、少し時間をおいて回答する、というのもポイントである。
こちらは、常日頃からよく似た要求を各方面で突きつけられているので、通せる内容か否かは瞬時に判断がつくわけだが、相手が悪質だと「その場で判断・即答せずに、検討してから回答しろよ」というような主張を展開してくることもある。
そのリスクを避ける意味でも、一呼吸おいて回答するのが無難。
ただし、日数を置いてしまうと先方で余計な期待が膨らむケースもあるので、その塩梅には注意したい。
もちろん妥当性が感じられない場合には、その場で打ち返してもよい。
ただし、交渉相手の面子を傷つけてしまうかもしれないので、相手方も複数人参加の場合には、「面倒だからこの場でこのやりとりは完了させたい」という場合以外はお勧めしない。
相手方「B社は単価●●円で出してきてたよ」
わたし「なるほど、そうなんですね。
B社の△な点を懸念されて弊社にご依頼いただいたんですよね。弊社は△の点でB社より質が高いサービスを提供していると思うのですが、
そういった部分が単価の違いに現れているとお考えいただけますか」
変形パターンとして「あなたは●●だ」と決めつけるやり口もある。
相手が自分の思い通りにならなかったことへの呪詛を吐いてくるパターンだ。上述の「あなたができないと回答するのは職務上怠慢にあたる」というのも、この形に該当する。
これはビジネス上の交渉ではなく、捉え様によっては人格否定の域まで踏み込みつつあるセリフで、社内で「パワハラ」と指摘されかねない発言だ。(もし、20代でこういう取引先にあたってしまい、人格や人間性を批判するようなことを頻繁に言われてストレスを感じているようであれば、上司や先輩に早めに相談することをおすすめする。)
そんな言葉を吐いてカタルシスを得ているのだな南無、と両手を合わせつつ、何を言われようと受け入れられないものは受け入れないので、軽く受け流しておけばよい。
わたし「それはいたしかねます」
相手方「そんな調整さえできないのは、あなたに力がないからでしょう」
わたし「そうですね、力不足で情けない限りです」
負けるが勝ちである。
ここで相手方と議論しているのは、自分の力量についてではなく、「対応する/しない」についてだということを忘れないでほしい。対応しないことを力量と無理やり関連づけて煽ることで、こちらが下手を打つのを誘導しているだけだ。
むしろ、力不足ですいませんという姿勢を見せた途端、虚を突かれたように相手が黙ることも多々ある。
ちなみに、自分の力量が小さいことを認めたところで、それを理由に担当者を変えろと言われることは滅多にない。もちろん断言はできないけれど、担当を変えろと言われたら、そのまま上にそれを伝えればいいと思う。物分かりのいいクライアントを担当できた方がこちらも幸せなのだから、上司が真に受けてアサインを調整してくれるならば、それはそれで好都合だと考えればよい。
ちなみに「怠慢」など、こちらが手を抜いているような指摘だった場合には、事実でなければ縦に首を振らないのが無難だ。「YES」と言ったことに対して、なんらかの埋め合わせを要求されないからである。そういった指摘の場合には否定して、正当な反論を展開するのもよいと思う。
(怠慢系の対応策は後述)
その2:「上司を出せ」
ビジネスゴネ得だけではなく、飲食店などでもこのパターンで激昂している(ように見える)人を時折、目にする。
良識があり相手への配慮ができる人間であれば「上司を出せ」の前に「●●部長にも掛け合って、ご検討いただくことは難しいでしょうか?」といったアプローチをしてしかるべきだと思う。
このプロセスをすっ飛ばして「上司を出せ」と主張するのは、まさに「そう脅せば言うことを聞く」と思っているパターンの典型。
上記のプロセスを踏んだ上で、上司を出せとはいわずに、上司もCCに入れてメールを送るなり何なりしてくるのがスマートな大人対応と言えよう。「上司を出せ」と要求しないことには、相手方の上司にアプローチできないような関係性の築き方をしている時点で、相手はちょい間抜けなのだ。
とにかく、こういうケースは淡々と適切に対処して、吠え面をかかせたいところである。
相手方「君じゃ話にならない。上司を出せ!」
わたし「(間髪入れずに)それは致しかねます。
現場責任者はわたしですので、わたしがお伺いいたします」
たじろがず、毅然とした態度を示すのがポイント。
本当にろくなもんじゃないと思うが、こういうことを言いたがる人って、相手の「怯え」や「面子」に非常に敏感で、こちらの動揺を察知すると余計に強い揺さぶりをかけてきたりする。本来であれば「淡々としたトーンで飄々と」などというのは小手先のテクニックだが、こういう相手には意外なほど効果を発揮する。
というか、血の匂いに敏感なハイエナのように怯えを嗅ぎ取る輩なので、たじろぐ素振りを見せると割りを食うことが多い。
もちろん、若手の場合、自分の手に追えなさそうな話であれば、上司に同席を頼むのが妥当だと思う。
ちなみに、相手方がそういった主張を展開してきて、こちらに落ち度がない場合などは、個別に双方の上司を同席させる場を設け、「契約時の合意通り、こういう進行をしており(ご納得いただけていないようだが)、今後もこの形で進行しますがいいですよね」と明示的に意思確認する場を設けるとよい。
その会議の間だけ、急に相手方担当者が温和な態度になったりもするので、単純に面白いということに加えて、今後も相手から筋違いの主張が続く場合などに、先方上司から先方担当者へ釘を刺してもらうための布石にもなり得る。
相手との関係性にもよるが、こちらの上司だけではなく、先方の上司も同席させることがベターなことは言うまでもない。監視の目が増えれば、相手方が主張を展開する際に考慮すべき視点が増えるということなのだ。
加えて、相手方の上司の出方を探ることで、先方の担当者に問題があるのか、もしくはクライアントの企業体質そのものに問題があるのかの見当もつく。
双方の上司を同席させるのは、相手を牽制する意味でも非常に効果的だ。
その3:「対応が遅い。何をやっていたんだ!」
もちろん、自社の対応に不手際があれば、その点を詫び、改善すべきなのは言うまでもない。
ただ、この主張がいささか妥当性を欠いている場合には、こちらが何らかのアクションを起こすまでに、どんなプロセスがあり、それにどのくらいの時間がかかるのが妥当なのか、相手方の主張者が正しく理解できていないケースが多い。
例えば、何らかの障害が発生して、それを復旧させる必要がある場合には、事象としてエラー発生が発覚してから、原因切り分け・調査を行い、原因が特定できれば対応方法を複数パターン検討し、リスクや工数などを多角的に検討して、対応方針を決め、実行に移すという流れになる。場合によっては、瑕疵担保に該当するか否かに応じて、どちらの負担で対応を進めるのかといった協議も必要になるだろう。
上記の下線部分については、先方の責任者が詳細を把握していなかったりすることが多いので、「遅い!まだなのか!」という話になりがちなわけである。
相手方「先日連絡した●●の件ですけれど。もう1週間経ちますよね。
この1週間何やってたんですか」
わたし「われわれもスピード感が求められていることは
重々承知しております。
一方でこちらについて判断を下すためには
△や◆といった事項の確認も必要ですので、
現在はその詳細確認を進めている段階にあります」
ーーーーーーー
わたし「並行して△や◆といったご依頼もいただいておりますので、
担当リソースを調整しつつ、可能なタイミングで
作業進行している次第です。」
ここで大切なのは、まず「ちんたらやれば良いと思ってるわけではないよ。なる早で対応すべく動いてるよ」 と伝えること。
その上で、何に時間がかかっているのか、先方の期待より遅れているのは何故なのか、説明する。
それでも遅いと非難してくる場合には、現状で依頼いただいているリソースでこれ以上のスピード感を求められても対応できないことをロジカルに説明して、見積もりを提示すればよい。
その4:「簡単にできないというな」「それは職務怠慢だ」など
「わたしの上司でもないお前の指示を仰ぐ謂れはないのだが」「お前の要求に応えるメリットが見つからないんだが、わたしを動かしたければ金を払ってもらえます?」と言い返したくもなるが、グッと堪える。
自分の主張通りに相手が動かなかったことに対して、圧力をかければ自分の意のままに動いてくれるだろうという力学での発言なのだろうが、この手を使ってくる相手はそれ相応に追い詰められている。
「やります」「できます」と言わせたい一心で口に出てきた言葉が、「できないと言うな」という小学生みたいなセリフなのである。
そのことを頭の片隅において、声のトーンとしては寄り添いつつ、できないものはできないと改めて伝える必要がある。
わたし「それは、非常に難しいですね」
相手方「この場でできないというな!やれる方法を考えるのがお前の仕事だろう。
検討もしないのは怠慢だろう」
わたし「お気を悪くされたならば申し訳ありませんが、
私もこの場で「できます」と即答することはいたしかねます」
まずは最初に、どういう形で圧をかけてこようと、この場で「YES」とは言わないかんね!という意思表明をする。 察しのいい相手の場合は、この発言だけでその場での攻撃の手を緩めたりもする。
その上で、少々ヒートアップしている相手が冷静になるのを待って議論を続けたいのであれば、
わたし「これは重要な点ですので、持ち帰らせていただいて、
社内で検討させていただいてもよろしいでしょうか」
などと一旦躱してもよい。
もしくは、検討しろという主張自体に難がある場合などは、それを指摘してもよいと思う。
相手方「この場でできないなどと言うな!
やれる方法を考えるのがお前の仕事なんだから、
検討もせずに回答するのは怠慢だろう」
わたし「なるほど。
通常、実現方法の策定といった工程は変数も多く
検討自体に工数を必要とするため、
お見積もりの上で対応させていただいておりまして。
次回お見積もりをご提示させていただきますので、
その上でどのような形で進めるかご検討いただけますか?」
タダでおかわりできると思うなよ、という返しである。
物わかりのいい相手であれば、「検討しなくてもよい」と言ってくれたりもするので、敢えて少しきつめに釘を刺したい時には有効だ。
ヒートアップ中に鋭い返しをすることで我に返る余地のある相手の場合には有効だが、プライドが高い相手にはかえって火に油を注ぐこともあるので注意。
その5:「文書で回答しろ」「謝罪に来い」
相手方の「一度痛い目見させてやるからな」という怨念が滲み出ているパターンである。
もちろん、何らかのトラブルがあったのであれば、経緯報告書くらいは提出してもよいと思う。とはいえ、起こった事象に対して上記のような要求が過度に思える場合には、いちいち誠実に対応しないとならない謂れはない。
いずれも
「申し訳ありませんが、それはいたしかねます」
「わたくしの一存では、いたしかねます」
で応対。
30分程度の打ち合わせで納得いただけるのであれば訪問してもよいのだが、お仕置き的な意味合いでこの要求をしてくる輩は、早朝や深夜などの良識に欠ける時間帯を指定してくることも多い。
その場合には、業務時間外だと明確に伝えてしまえばよい。会社の規定に守ってもらうのが吉である。
ご指定いただいた時間帯は、あいにく業務時間外ですので
お伺いいたしかねます。
逆にあなたが20代中盤くらいまでの若手で、上司や職場との環境も良好なのであれば、「業務時間外なので、御社に訪問しても問題ないか上司に確認の上、返答させていただきます」くらい言ってやってもよいかもしれない。
これを口にする若手は、ちょっとお間抜けな場合もあるけれど、優秀で会社にしっかり守られている人間であることも多い。あえてこちらから「上司」の存在をチラつかせることで、先方を牽制できるのは、上述の通りだ。要求の妥当性が薄ければ薄いほど、相手方は肝を冷やすはずである。
無茶な仕事を受けてしまうことの弊害
冒頭に「不当な要求は断ることも仕事のうち」と書いた。
これは短期的に自分やプロジェクトメンバーを守るという意味合いがあることは言うまでもないが、長期的にみても意味がある。
最近、「無理な要求は受けない」という組織文化を作ることが多重に重要だと感じる。
「受けるべきか、受けないべきか」や、利益とコストといったPLの感覚が肌に馴染むまでには、どうしたって時間がかかるものだ。
様々な経験からそういう肌感を蓄積・吸収している若手の時分に、「無茶振りをされても対応する」「むしろ無茶を言われるほど指数関数的にがんばる」ことを美徳として学習してしまうと、本人のその後のキャリアに暗い影を落とすことになる。
加えて、それは本人への悪影響に止まらない。
こういう人は多くの場合、周囲にも自分と同様のベクトルの「がんばり」を強要する傾向が強い。
精神論を撒き散らしてチームを疲弊させる。しかも、本人は「わたしは精一杯がんばった」「正しいことをしている」という実感を強く抱いているので、なかなか改善が認められない。
こうした若手が中堅になり、やがて業務を指示・管理する立場になることで、「不当な要求に対応するのが当然の組織」が再生産されていく構造を、これまでに幾度も目にしてきた。
特に営業的な立ち回りが要求されるポジションだと「顧客の要求に応え、次のオーダーも取らなくては」という心理も働くので、要求の適否の判断はより難しくなり、知らぬ間に当人が追い込まれている、あるいはチームを追い込んでいるという状況に陥りかねない。
そして、そういう状態をなんとなく察知しながらも、問題が表出するまでは静観しているのが組織側の常である。
社員に不要なストレスがかかる状態を認識しながら放置することは集団心中的だとわたしは考えるのだけれど、営利組織である以上、マネジメントにそこまでの配慮を求めることは、それこそ「不当な要求」にあたるのかもしれない。
疲れ果ててNOという気も起こらない日の自分を守るために、そして、いつか不当な要求に涙を飲みながら応対した若い自分へのねぎらいを込めて、まとめた。
なんで急にこんな記事を書こうと思ったかって?
それは有給の予定を変更して、クライアントの要求に応えて半日作業をしたからだよ。