365日の顛末

こころとからだの健康、不妊治療、キャリア。試行錯誤の365日の記録。

不妊・不妊治療に関する誤謬とメディアの功罪(with onlineの不妊関連記事に寄せて )

先日、Twitter上で、With Onlineの以下の記事が話題になっていました。

 

withonline.jp

 

わたしも内容を拝見したのですが、正直、違和感を拭えませんでした。

昨今の不妊関連の情報に関するメディア発信の仕方と、

今回覚えた違和感は、根本で似た部分もあるように感じたので、

それについて書きたいと思います。

 

 

With Onlineに掲載された「不妊治療」に関する記事の概要

記事の概要はこんな感じです。

  • アナウンサーであるインタビュイーが結婚から3ヶ月後、妊活を始めようと産婦人科を訪れたところ、多嚢胞性卵巣症候群であることが判明
  • 排卵誘発剤を用いてのタイミング法、人工授精では妊娠には至らず、産婦人科受信から8ヶ月目に気分転換に旅行に出かけたところ、自然妊娠が発覚
  • 「子供って奇跡の存在。すぐ妊娠する人もいれば、原因があってできない人、原因が分からずできない人と、様々にいます。」と所感を語る

 

わたしも、最初にTwitterでこの記事に対する批判を目にしたときには、

「すんなりと授かれた方への嫉妬心が混じった批判かな」などと

やや懐疑的な目で眺めていました。

ただ、実際に記事を読み進めるうちに、不妊治療の当事者として、

心に引っかかる部分を感じました。

 

 

違和感を抱かせる最大要因:取材対象の方は不妊症の定義に該当しない 

記事の中では、取材対象者が子どもを授かるまでの

タイムラインが掲載されているのですが、

2016年10月にご結婚され、2017年1月に妊活をスタートし、

2017年8月に妊娠が判明されたと記載されています。

 

以下はWith Online内の記事から拝借した画像です。

f:id:sophy365:20210301163544j:plain

 

 

これに対し、不妊症については、WHO、日本産科婦人科学会ともに、

妊娠を望む男女が避妊をせずに性行為をしてるのに1年以内に妊娠に至れない状態

と定義しています。

妊孕能(妊娠能力)の正常なカップルでは、膣内射精をしてると3ヶ月で約50%、

6ヶ月で70-80%、1年で約90%が妊娠するため、このような基準になっています。

不妊 - Wikipedia

 


さて、記事内のケースに戻りますが、

取材対象者はご結婚から11ヶ月後、妊活開始から8ヶ月目には妊娠発覚したことになり、

先ほどの不妊症の定義には該当していないのです。

つまり、この記事内で描かれている「不妊症」は、

「避妊をせずに性行為をしてるのに1年以内に妊娠に至れない状態」には該当せず
医学的、一般的に不妊症として定義されているものとは異なるものです。

 

察するに、”任意”で不妊治療をスタートし、”妊活”の範疇のトライを繰り返して、
その後無事妊娠できた、という幸運な例なのでしょう。

(任意でない不妊治療というものも、おおよそ想像つきませんが。)

 

記事内では「不妊症」だとは言っていない

さらに、よくよく内容を読み込んでみると、

インタビュイーが「不妊症」だという記載は記事内には一切ありません。

 

ご本人の口から発せられているのは、「不妊治療」というワードです。

と同時に、この記事タイトルに「不妊治療」と掲げているので、

編集側も取材対象者が語る内容が不妊治療だという理解のもとに

執筆したものなのだとは推測できます。

 

 

ここで、一般的なワードの定義の話に戻ります。

先にふれた通り、WHOなどで「不妊症」が明確に定義されているのに対して、

「不妊治療」というワードは具体的に何を指すのか明確な定義がされていないようです。

少なくとも、ネットで探したところ該当する情報は見つけられませんでした。

「不妊症」である、もしくは「不妊症」の疑いがある人が、妊娠を望んで産婦人科を訪れ、

受診するところからスタートするのが不妊治療。

現在のところは、上記のような曖昧なくくりのもとに使われているワードのようです。

 

この記事を講談社が掲載することの功罪

少子化対策が叫ばれている中、これから結婚や妊娠を考える年代の女性に向けて、

多くの読者を抱えるWithのような媒体が、不妊の可能性について触れて啓蒙を行うことは、

社会的にも非常に有意義だと思います。

 

一方で、講談社といった大手で、影響力の強い媒体だからこそ、

誤解を招く可能性のある情報発信には慎重になってほしいところです。

 

こういった幸運なケースのみを取り上げて掲載することは、

「不妊治療を受けるとはいっても、半年もすれば自然妊娠できるものなのだ」

といった誤解を生ずるのではないでしょうか。

それは、ひいては「不妊治療を受けている人は、焦りすぎなのではないか」

という誤謬につながらないでしょうか。

 

 

わたしは決して、後期ステップ経験者のみが不妊治療を語るべきだと主張しているわけではありません。

不妊治療を自分の言葉で語ること自体は自由だと考えています。

(不妊治療自体の経験がない方が不妊治療についての想いを語ることだって

 許されるべきです。言論の自由がありますからね。)

 

ただ、初期ステップと高度不妊治療とでは、当事者の肉体的負担も経済的負担も

比較できないほどの差があるのは事実です。

「不妊症」の定義にも当てはまらず、初期ステップのみ経験された方の所感を

「不妊治療当事者の捉え方」という形で総括しないでいただきたい。

それが、記事を批判されている方々の想いではないかと。

そして、顕微治療当事者であるわたしも同様に考えています。

 

 

例えば、災害が起こって現地の居住者の半数が被災して半数が被害を免れた場合、

被害がなかった半数の方のみを取材して、

「精神的には辛かったが、大きな被害はなかった。助かったのは奇跡」

という声だけを報じて被災した方の実情には触れなかったとしたら、

情報提供側の配慮のあり方として片手落ちではありませんか。

 

繰り返しになりますが、インタビュイーを批判するつもりはありません。

ただ、仮に取材対象者が上記のような発言をしたとして、

それをそのまま掲載することは多くの人が目にする媒体のあり方として、

許容されるのでしょうか。

メディアにおける編集の責任について考えてしまいます。

 

災害の例はやや乱暴かもしれませんが、発信する情報の受け取られ方、

記事を目にした当事者の心の機微について編集部内で何の議論もなされなかったのか、

純粋に疑問に思いました。

 

 

 

昨今、高度不妊治療費用の助成金制度などの変更もあり、

不妊症・不妊治療に関心を持つ女性も増えてきていると思うので、

不妊に関するトピックスは確実に数字を稼げるコンテンツなのかなとも思います。

 

現状の政策では、高度不妊治療が適用されるのは

「体外受精・顕微受精」のステップ以降なわけですが、

その前段階のタイミング法 や人工授精で授かれた方が明るく語る「不妊治療」の記事は

「タイミング法や人工授精でも助成金を受けることができる」といった

誤解を招くことにならないでしょうか。

 

情報を受け取る側のリテラシーの問題だと一蹴すればそれまでですが、

現状、制度についての賛否が大きく揺れている中で、

本来であれば不妊症の定義や不妊治療の適用外となる方のみを取り上げて、

不妊治療を語らせるメディアのあり方に対して、当事者としては疑問を禁じ得ません。

 

 

高齢出産についての最近の報道の偏りについて思うこと

ここのところ、著名人・芸能人の高齢出産のニュースが盛んに報道されています。

中には40代後半で第一子を授かったというニュースもありました。

 

こういった報道は、多くの授かれなかった人たちの中でもごくわずかな、

一握りの幸運な方の例を取り上げているのだと思います。

不妊治療を繰り返しても実を結ばなかったことを自ら喧伝する人は稀なので、

明るいニュースにのみ焦点が当たっているだけだと思います。

(って、自分の心を抉られる思いで書いていますが。苦笑)

 

先日リプロダクションクリニック東京の説明会を受けたのですが、

「現状の医療で当クリニックのデータだと、現実的に治療終了を

 検討すべき平均年齢は43歳くらい(もちろん、個人差はある)。

 芸能人の高齢出産成功のニュースの裏には、

 何万人もの授かれなかった人が存在する。

 ただ、それが語られないだけだ」という話がありました。

 

明るいニュースを取り上げるな、と主張しているわけではないのです。

不妊治療にある一定の効果があると報じられないことには、

助成制度増強を支持する世論は起こらないはずですし、

そういった報道にはそれで意味があると思います。

一方、偏った情報だけが発信され、現実的なバランスを欠いた認知を

醸成しかねない現状の報道の偏りには、閉口してしまいます

 

妊娠・出産を奇跡にしないことこそ医療の役割だと思う

この取材の中でインタビュイーは「子供は奇跡の存在」である、

「容易に妊娠できる人もいれば困難を抱える人もいる」とも語っています。

親の立場からすると子どもを授かり産むという体験は、

奇跡の連続のように感じられるのだろうということは、なんとなく想像できます。

個人の主観としてどう捉えるかについて議論するつもりはありません。

ただ、「容易に妊娠できる人もいれば困難を抱える人もいる」現状の中で、

妊娠・出産を奇跡にしないことが医学や医療のあるべき姿なのではないかと、

わたしは思うのです。

 

 

「With」は20代の頃にわたしも購入したことのある雑誌でした。

同世代の友人も、よく手にとっていたように記憶しています。

 

ファッション誌といえども「不妊治療」というワードで情報発信される以上、

医学や医療的な見地からも問題を孕んでいないのか、

内容の適否をより慎重に検討されることを心から望みます。

 

 

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